UNSCEAR 2020/2021年報告書 附属書B

よくある質問と答え

1. UNSCEAR 2020/2021年報告書はどのようなものですか?

2011年3月11日、現地時間14時46分、日本の本州付近でマグニチュード9.0の地震が発生し、壊滅的な津波を引き起こし、大きな痕跡を残しました。この地震とその後の津波により、500平方キロメートル以上の土地が浸水し、2万人以上の人命が失われ、財産、インフラ、天然資源が破壊されました。また、その地震は、1986年のチョルノービリ事故以来最悪の民生原子力発電所事故を引き起こしました。東京電力福島第一原子力発電所では、敷地外および敷地内の電力が失われ、安全システムが損なわれたため、6基ある原子炉のうち3基が炉心損傷し、長きにわたり放射性物質が環境中に放出されることとなりました。

2011年5月、UNSCEARは、東京電力福島第一原子力発電所事故による放射線被ばくのレベルと影響に関する2年間の評価に着手しました。2013年10月、その結果について、「2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響」と名付けだれた詳細な報告書に、その根拠となる科学的データと評価と共に国連総会に報告され(A/68/46)、2014年4月にオンラインで公表されました。

UNSCEAR 2020/2021年版報告書は、「福島第一原子力発電所事故による放射線被ばくのレベルと影響(FDNPS)」と題され、UNSCEAR 2013年版報告書以降の追加情報、測定及び結果をまとめて新たに評価した報告書であり、英語と日本語で掲載されています。

この報告書は、福島第一原子力発電所の事故による放射線被ばくのレベルと影響に関連する、(2019年末までの)すべての科学的情報を要約し、UNSCEAR2013報告書の情報と結論の文脈で評価したものです。本報告書の主な目的は以下の通りです。

  • 2012年以降に入手可能なすべての情報をまとめ、UNSCEAR2013年報告書への示唆を評価する
  • 入手可能な情報のより詳細な分析に基づき、公衆への被ばく線量の推定値を検証し、修正する
  • 不確実性の改善された評価を打ち出す
  • UNSCEAR2013年報告書では十分に扱われていない問題や目的をより詳細に取り上げる

報告書では、以下のトピックを扱っています:

  • 大気中への放射性物質の放出、拡散および沈着。
  • 海洋環境への放射性核種の放出、拡散、および沈着。
  • 陸域および淡水域環境における放射性核種の移行。
  • 公衆の被ばく線量評価
  • 作業者の被ばく線量評価。
  • 作業者及び公衆に対する健康影響。
  • ヒト以外の生物相に対する線量および影響の評価。

2. 報告書の執筆者は誰ですか?

UNSCEAR 2020/2021報告書は、約30名の専門家と13名の独立した査読者によって作成されました。 500以上の科学論文の包括的なレビューを行い、それらはすべて品質チェックと査読行われました。さらに、委員会は文献に加え、南相馬市と楢葉町のモニタリングデータも使用しました。委員会は、2020年末に報告書の検討を行い、採択しました。報告書と補足資料はこちらでご覧いただけます。また、製本された報告書は国連ショップで注文することができます。

3. 何が新しいのでしょうか?

UNSCEAR 2020/2021 報告書は、2012 年 10 月以降の入手可能なデータに基づいており、UNSCEAR 2013 報告書の主な所見と結論を広く支持しています。

福島県民において、事故による放射線被ばくに直接帰因する健康への悪影響は報告されておらず、また将来的に検出されることもないと予想されます。

現在入手可能なより多くの情報を用いて、報告書には以下の内容が含まれています。
  • より現実的な一般公衆の被ばく線量の推定値。
  • 推定被ばく量の不確実性、被ばくの範囲、集団間の平均被ばく量の定量的評価。

また、10年経過した現在、高濃度汚染地域を除くすべての地域で、事故による放射線被ばくのレベルが、自然バックグラウンドによる放射線被ばくを下回るレベルまで減少していることも確認されています。

4. 被ばくした集団における主な健康影響には何がありますか?

UNSCEAR 2013報告書以降、事故による放射線被ばくに直接帰因 すると思われる福島県民の健康被害は報告されていませんし、将来においても、検出されるとは想定されません。

放射線被ばくは、被ばくした人々の疾病発生率を増加させる可能性があります。しかし、例えばがんの場合、特定の患者の疾病が放射線被ばくによって引き起こされたかどうかを観察または検査によって区別することは一般的に不可能です。そこで委員会は、推定線量から理論的に算出されるある疾患の発症率の増加が、その集団におけるその疾患のベースライン発症率の通常の統計的変動と比較して検出可能かどうかを推定することにより、事故後の放射線被ばくによるリスクを評価しました。委員会の結論としては、改訂された推定線量は、放射線に関連した健康影響が検出される可能性は低いというものでした。

放射線被ばくに関連した過剰な出生異常、死産、早産、低体重出生について信頼に足る証拠はありません。事故後、避難してきた人々の間で、心血管系および代謝系疾患の発生率の増加が観察されていましたが、これはおそらく付随する社会的および生活様式の変化と関連しており、放射線被ばくに帰因するものではありません。

委員会はまた、甲状腺がん及び、白血病や乳がん等の放射線感受性の高い他の種類のがんについては、福島県民の放射線被ばく量が一般に低いため、検出可能性  は高くないと結論づけました。

さらに、10年経過した現在、高濃度汚染地域を除くすべての地域で、事故による放射線被ばくのレベルが、自然バックグラウンドによる放射線被ばくを下回るレベルまで減少していることもわかりました。

地震、津波、東電福島第一原子力発電所の複合事故後、過剰な心理的苦痛が発生しました。 しかし、この報告書では、精神的健康や経済的影響など、当委員会の権限外であるその他の健康影響については触れていません。

5. 子供たちが将来甲状腺がんを発症するリスクは増加したのでしょうか?

事故後、最も懸念されたのは、放射線被ばくが甲状腺がん発生率の上昇につながるかどうかでした。被ばくした子どもたちの間において、相当数の甲状腺がんが検出されましたが、委員会は、入手可能な証拠を考慮すると、(予想よりも)甲状腺がんが大幅に増加しているのは、超高感度スクリーニング検査によって、これまで認識されていなかった集団における甲状腺異常の有病率が明らかになったためであり、放射線被ばくの結果ではないと考えています。

6. 作業者の放射線被ばくについてはいかがでしょうか?

2011年3月から2012年3月末までに、東電福島第一原子力発電所において被害軽減作業 などに従事した2万人以上の緊急作業者の平均実効線量は約13mSvでした。約36%が10mSv以上の実効線量を受け、0.8%(174人)がこの期間に100mSv以上の線量を受けたと評価されています。

2012年4月以降、年間実効線量はかなり低下しており、2013年3月末までの1年間に約6mSvだった年間平均実効線量は、2020年3月末までの1年間に約2.5mSvに減少しています。2013年4月以降、年間実効線量が50mSvを超える作業者はいません。

UNSCEAR 2020/2021年報告書では、白血病、全固形がん、甲状腺がんについて、作業者におけるがんの発生率の増加も検出可能ではないと判断しています。

7. 福島原発事故の放射線影響は、チョルノービリ事故と比べてどうなのでしょうか?

2020/2021年UNSCEAR報告書附属書Bでは、福島第一原子力発電所事故とチョルノービリ事故の主な影響を、人とヒト以外の生物相への線量と影響の観点から詳細に比較しています。

福島第一原子力発電所の事故による放射線影響は、以下の理由からチョルノービリ原子力発電所の事故よりはるかに小さいものでした。

  • 福島第一原子力発電所から放出された放射性ヨウ素と放射性セシウム(放射線学的に重要な放射性核種)は、チョルノービリ原発からの放出量のわずか10%程度でした。
  • 福島から大気中に放出された放射性物質のうち、日本の国土に拡散したものは約20%に過ぎず、残りは太平洋に拡散して沈着し、その影響ははるかに小さくなりました。
  • 日本政府は、食品と飲料水からの被ばくを制限するために、適時的かつ効果的なモニタリングと制限を行った一方、旧ソ連の一部の地域では、制限が遅れたため、被災者の甲状腺に非常に高い線量がもたらされました。
  • その結果、福島からの避難者の甲状腺線量はチョルノービリからの避難者の約1/100、より影響を受けた福島第一原子力発電所周辺地域の避難していない人々の甲状腺線量はチェルノブイリ原発周辺の人々の数十分の一でした。
  • 事故当時、子どもや青年だった人たちに観察された19,000人の甲状腺がん(2016年まで)のかなりの部分が、チョルノービリ事故による放射線被ばくに帰因するものであった。福島事故後に観察された甲状腺がん発生率の増加は、放射線被ばくではなく、高感度な甲状腺スクリーニングプログラムの結果である可能性が高いと考えられます。
  • 福島では、粘土質の土壌のため、放射性セシウムは土壌とより強固に結合し、それほど容易に移動しませんでした。1986年の事故後のチョルノービリでは、このようなことはありませんでした。

8. 事故後環境には何が起こりましたか?

海洋環境

委員会は、事故により放出された放射性物質の海洋環境への移行を検証しました。2012年までに、東電福島第一原子力発電所沖の沿岸海域のセシウム137の濃度は、事故前のレベルをほとんど上回っていません。海産食品に含まれるセシウム137の濃度は急速に低下しています。2011年に福島県沖で採取されたサンプルの41%が、日本政府が定めた長期規制値を超えましたが、2012年には17%に減少し、2015年初頭からは9000サンプル中わずか4サンプル(0.05%)になっています。

陸域及び淡水域環境

陸域および淡水環境を通じて大気中に放出された放射性核種の量と移行について、日本固有の情報が数多く蓄積されています。事故直後に開始されたモニタリング・プログラムにより、放射性核種の濃度が日本政府が定めた規制値や制限値を超える食品が市場に出回るのを防ぐため、時宜を得た規制を行うことができました。ほとんどの監視対象食品の放射性核種の濃度は、事故後急速に低下しており、2015年以降、畜産物および農作物のサンプルの全てにおいて日本政府が定めた基準値を超えたものはなく、監視対象の野生食品や淡水魚製品においては数%未満が当該基準を超えたのみでした。また、モニタリング対象農産物については、2011年にごく一部のサンプル(数%未満)が国際貿易のためのコーデックス委員会ガイドラインレベル を超過しましたが、2012年以降は超過したサンプルはありません。

日本政府や自治体が実施した大規模な修復プロジェクトや、自然現象や放射性物質の崩壊により、陸域や淡水の環境中の放射性セシウムの濃度はさらに低下しています。

野生生物 (ヒト以外の生物相)

当委員会は、東電福島第一原子力発電所事故による放射線被ばくと明確な因果関係がある野生生物個体群 への地域的影響は考えにくいとしつつも、個々の生物への有害な影響はあり得るかもしれないと考えています。広範な集団的影響がないとしても、植物や動物でいくつかの影響は実際に観察されました。

9. 日本産の食品を食べても安全でしょうか?

ほとんどのモニタリング対象食品の放射性核種濃度は、事故後、急速に低下しています。2015年以降、日本政府が設定した規制値を超えた畜産物や農作物のサンプルはなく、モニタリング対象である野生食品と淡水魚製品の数%未満が超過しているのみです。

事故が起きた2011年には福島県沖で採取されたサンプルの41%が、日本政府が定めた長期規制値を超えましたが、2012年には17%に減少し、2015年初頭からは9000サンプル中わずか4サンプル(0.05%)になっています。

また、モニタリング対象農産物については、2011年にごく一部のサンプル(数%未満)が国際貿易のためのコーデックス委員会ガイドラインレベル を超過しましたが、2012年以降は超過したサンプルはありません。

10. 将来への教訓はありますか?

将来に向けて、2020/2021年報告書では以下のように結論しています。

  • T事故後できるだけ早い段階で代表的な作業者集団および公衆の時宜を得たモニタリング(例えば、ホールボディ カウンター測定、甲状腺測定、個人線量測定)を行うことにより、放射線または原子力事故後の作業者や公衆の被ばく線量を評価する際の質と情報量を大幅に向上させることになるでしょう。事故直後に適切な人体測定が行われない場合、人への被ばくは、例えば事故が起こった施設やより広い環境において利用可能な他の測定値とモデルを用いてのみ評価することができることになります。これまでの経験から、このようなモデルの使用は、しばしば線量を保守的に推定することが分かっています。
  • 事故後できるだけ早い段階で代表的な作業者集団および公衆の時宜を得たモニタリング(例えば、ホールボディ カウンター測定、甲状腺測定、個人線量測定)を行うことにより、放射線または原子力事故後の作業者や公衆の被ばく線量を評価する際の質と情報量を大幅に向上させることになるでしょう。事故直後に適切な人体測定が行われない場合、人への被ばくは、例えば事故が起こった施設やより広い環境において利用可能な他の測定値とモデルを用いてのみ評価することができることになります。これまでの経験から、このようなモデルの使用は、しばしば線量を保守的に推定することが分かっています。

11. UNSCEARはどのようにして、評価の独立性を保っているのですか?

委員会の活動に関する運営原則(unscear.org)によると、代表、代表代理、アドバイザーは科学的資質や経験に基づいて各国政府によって毎年指名され、確立した科学的手順と価値に従って科学的評価を実行することとなっています。特に、放射線科学に関連する幅広い科学的・技術的問題について深い知識と経験を持ち、科学の進展について理解しており、国内での効果的な支援を促進することが期待されています。また、委員会の手続きや任務と対立する可能性のある外部からの圧力や利害に関係なく、独立して行動し、職務を遂行することが求められています。さらに、委員会は誠実に行動し、知的財産を尊重することが求められています。

UNSCEARの評価に関わるすべての専門家は、各国代表によって推薦され、ビューローによって承認されます。すべての専門家(国際機関のオブザーバーや査読者を含む)は、利益相反がないことの宣言書に署名しています。専門家グループは、透明性のある方法で、査読された文献のレビューを含む作業について、毎年委員会に報告します。

報告書のドラフトは、独立した査読者によって査読された後、事務局による認可と委員会による承認を経て提出されます。承認された科学的報告書は、UNSCEAR議長によって国連総会に提出され、国連総会報告書の附属書として発行されます。

UNSCEARの主な資金源は国連の通常予算です。2007年からは、加盟国からの自発的な拠出によるUNSCEAR信託基金によって補完されています。加盟国による委員会の科学的活動への主な貢献は、専門家の派遣、データ提供(モニタリングデータ、グローバルサーベイなど)、主に専門的な知識の共有です。